Coil-Globule転移を、可逆的に、そして容易に生起する感温性高分子は、タンパク質の熱変性モデルとして見なすことができる。しかし、そうした感温性高分子に分子認識能を付与するためには、タンパク質が示すような高次構造を構築する必要がある。水中での溶存状態の、もしくは構造転移後の高分子鎖が折り畳まれた状態で、秩序だった構造をとることのできる高分子の分子設計が必要であると考えられる。 これまでに、秩序だった構造を実現するために、側鎖に光学活性基を有する新規感温性高分子Poly(N-(L)-(1-hydroxymethyl)propylmethacrylamide)(P(L-HMPMA))を合成し、その水和・脱水和状態間の転移挙動について検討してきた。このP(L-HMPMA)は、光学活性なモノマーを重合することにより得られているので、側鎖間での配向状態が高く、高分子鎖全体がコンパクトに折り畳まれた状態になり、高分子鎖の水和状態が低くなっていることがわかっている。この高分子水溶液の挙動を、架橋体である高分子ハイドロゲルの膨潤収縮挙動と比較し、さらにその水和・脱水和状態間の転移挙動について知見を得た。 P(L-HMPMA)ハイドロゲルは、10℃以下で膨潤し、温度上昇とともに緩やかに収縮をしはじめ、約30℃で収縮時の膨潤度が一定になる温度依存性を示した。この挙動は、P(D-HMPMA)ハイドロゲルでも同様であった。一方、P(DL-HMPMA)ハイドロゲルは、低温時の膨潤状態から、温度上昇に伴って直線的に減少する収縮挙動を示した。また、同じ条件で調製したPoly(N-isopropylacrylamide)(PIPAAm)ハイドロゲルの膨潤収縮挙動も同時に測定した。10℃におけるPIPAAmハイドロゲルは、P(L-HMPMA)ハイドロゲルの約3倍ほど高い膨潤度の値を示し、約32℃で急激に収縮した。低温時の膨潤度の違いは、高分子鎖の水和状態に依存しているものと考えられた。すなわち、ハイドロゲルの膨潤状態においても、これを構成する光学活性な高分子鎖が集合体を形成しており、相対的に低い膨潤状態を示したものと思われる。
|