本研究では、外部刺激応答イオン素子のモデルとして、pH状態を記憶した情報と、温度情報をAND演算して出力する高分子イオン素子の作製を行い、このイオン素子を用いて外部刺激の演算結果により、特定イオンの輸送ベクトルを制御可能な能動イオン素子の開発を行う。そのため、まずポリビニルアルコール(PVA)のDMSO溶液中でN-イソプロポルアクリルアミド(NIPAAm)をin situ重合したポリマーと、PVAに2mol%のイタコン酸を共重合組成として含むポリマーをブレンドしてキャストし、160℃で熱処理後、グルタルアルデヒドで架橋することでイオン素子を作製した。そのイオン素子をpH13、またはpH2の処理溶液に浸漬後、pH5.5のKC1溶液に保存しながら、50℃と10℃で膜電位を測定した。そして膜電位のデータよりイオン素子の荷電密度を算出した。その結果、このイオン素子は高pH処理(pH13)を行うと、高温では荷電密度が高い値を示すが、低温では低い荷電密度を示した。しかし、低pH処理(pH2)を行うと温度に依らず低い荷電密度を示した。これよりこのイオン素子が、高pH記憶、高温の条件のみ荷電密度が高くなるAND演算特性を示すことが判明した。イオン素子のイオン輸送ベクトルは荷電密度と関係があることが予測されているため、このイオン素子は外部刺激の演算結果により特定イオンの輸送ベクトルを制御可能であることが示唆された。
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