研究概要 |
アンチセンス法は、mRNA上の特定領域に対して相補的な塩基配列を有するオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を結合させることによって、その遺伝子の転写や翻訳を阻害し、結果的に有害なタンパク質の発現を抑える遺伝子治療法の一つである。前年度までに3'末端アミノ化ODNにPNIPAAmをコンジュゲートした片末端修飾型アンチセンスを合成した。この複合体は優れたアンチセンス効果を示したものの、ヌクレアーゼに対する耐性については改善の余地が残された。そこで今年度は、3',5'両末端アミノ化ODNを用いてアンチセンス試薬の再設計を試みた。合成法は昨年度と同様、3',5'両末端C7アミノ化ODNをビニル化し、これをNIPAAmモノマーとラジカル共重合することによって両末端修飾型複合体を得た。 得られた複合体に一本鎖DNAを特異的に分解する酵素(S1ヌクレアーゼ)を添加し、そのヌクレアーゼ耐性を調べた。この結果PNIPAAmが相転移する37℃において、複合体はヌクレアーゼの攻撃を完全に防ぐことが明らかとなった。これはODN近傍で相転移したPNIPAAmが立体障害によってヌクレアーゼからODN部位を保護した結果と考えられる。興味深いことに片末端修飾型ODNの場合、ヌクレアーゼに対する保護効果は相転移前後で変化が無かった。これは片末端修飾型の場合、相転移後もPNIPAAm疎水核から親水性のODN部位が外部に露出されるためであると推察される。 次に、E..Coli.T7 S30細胞抽出液を用いたin vitro転写/翻訳システムによつてODN/PNIPAAm複合体のアンチセンス効果を評価した。系の温度を連続的に変化させることによって、複合体の遺伝子発現抑制効果をOFFからONへスイッチすることを試みたところ、期待通り、複合体は相転移温度の上下で連続的にアンチセンス効果を制御することができた。
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