本研究の目的は、精密に分子設計されたホスト化合物のように堅い相互作用ではなく、ターゲット分子に応じてシンクロナイゼーションを行うフレキシブルな合成ペプチドを、コンビケムの手法により開発することである。さらにシンクロナイゼーションを情報変換することにより分子センサとしての機能を持たせる。 情報変換部位として、p-ニトロフェノールを色素部位とする脂溶性ペプチド誘導体を7種類合成した。前年度はこれらの化合物を用いて、疎水場での有機アミン類との相互作用について検討した。その結果、脂溶性ペプチドの分子認識能は、そのアミノ酸配列によって大きく影響を受けることが分かった。脂溶性ペプチド1〜7はモノプロトン酸(HL)であり、カチオン(Q^+)を水相から有機相へ抽出する能力があると考えられる。そこで今年度は、1〜7による4級アンモニウムイオンの抽出挙動について検討した。 テトラブチルアンモニウムイオンの場合、いずれの脂溶性ペプチドにおいても、水相のpHが高くなるにつれて、有機相に(QL)_oが生成し、431nm付近における吸光度が増大した。中でも脂溶性ペプチド4を用いたときには、その他の脂溶性ペプチドと比べて、pK_<ex>が約2小さくなり、テトラブチルアンモニウムイオンを効率よく有機相へ抽出することが分かった。抽出定数K_<ex>=([QL]_o[H^+]_a)/([HL]_o[Q^+]_a)は、水相のpHに対して、有機相の吸光度変化をプロットし、カーブフィッティングすることによって求めた。 脂溶性ペプチド4、7を用いたときのみ、テトラメチルアンモニウムイオン、アセチルコリン、コリンを有機相へ抽出することができた。1〜7の脂溶性パラメーターlogP_<o/w>はほとんど同じであるため、4級アンモニウムイオンとの結合・抽出能力には、Leu-Leu-Leuというアミノ酸配列が重要であることが示唆された。
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