外部刺激により分子集合体を構造変化を誘発し、これを利用したシステムのマクロな物性変化を生み出す新規人工材料システムの構築することを研究目的とする。 今年度は、金属内包フラーレン・脂質コンポジットフィルム修飾電極デバイスの作成と水溶液系での電子機能の解析を中心に行った。これまで30種以上の金属内包フラーレンが合成・抽出・単離され、活発な分光学的研究や固体物性研究が続けられおり、有機溶媒中の金属内包フラーレンが、電子移動反応を行うことが報告されているが、フィルムとして固定化した金属内包フラーレンの研究例は皆無であり、基本的な性質はまったく解明されていない。ここでは、La@C82-A・脂質コンポジットフィルム修飾電極デバイスを作成しその電子機能を精査した。 サイクリックボルタモグラム解析より、作成した機能電極が、3段階のレドックス応答を示すことがわかった。脂質を含まない金属内包フラーレン単独系よりcathodic電位は、大きく正にシフトした。また、cathodic電位は有機溶媒中の還元電位より0.5V正にシフトした。このシフトは、金属内包フラーレンと脂質カチオンの強い結合を示唆する。掃引速度とピーク電流値のプロットより、拡散が電極反応の律速過程に関与した応答であることがわかった。cathodicピークの安定性をnegative-end potential holdで調べたところ、第一段のcathodicピークに対して高い安定性が示された。これは、La@C82のclosed shell構造に起因するものと推定される。還元反応で生成したLa@C82アニオンは、酸素に対してかなり安定であった。 以上のように、金属内包フラーレンフィルム電極デバイスを初めて作成し、電気化学的手法により金属内包フラーレンの多価アニオンが容易に生成できること、またそれらが水系で安定であることを見いだした。
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