下限臨界溶解温度(LCST)を示す高分子として、我々の研究グループで開発されたポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(poly NVIBA)を選択した。アミノ基を導入することを目的に、NVIBAと誘導体モノマーであるN-ビニルホルムアミド(NVF)との共重合体(poly(NVF-co-NVIBA))を合成した。アルカリ水溶液中でのNVFユニットの選択的な加水分解により、ビニルアミン(VAm)基を持つ熱応答性高分子(poly(VAm-co-NVIBA))を合成した。また、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とアクリル酸(AAc)との共重合によりカルボキシル基を有し、同様に熱応答性を示す高分子(poly(AAc-co-NIPAAm))を合成した。両モノマーの仕込み比を変化させることで、異なるアミノ基あるいはカルボキシル基含量を有する高分子を合成した。ゲル薄膜の調製過程を定量的に解析するために水晶発振子(QCM)を基板として用いた。1)所定濃度のカルボン酸高分子(poly(AAc)もしくはpoly(AAc-co-NIPAAm))水溶液に縮合剤である水溶性カルボジイミドを添加し活性化した後、QCM基板を所定時間浸漬した。2)得られた活性カルボン酸基板を所定濃度のpoly(VAm-co-NVIBA)もしくはpoly(VAm)水溶液にそれぞれ浸しアミド結合させた。この1)、2)の操作を繰り返すことにより、異なる膜厚あるいは異なる分子種を組み込んだハイドロゲル超薄膜を調製した。縮合剤の存在により逐次積層され、積層数を変化させることにより膜厚が制御できた。poly(AAc)とpoly(VAm-co-NVIBA)の組み合わせの場合、積層過程はVAm含量に著しく依存し、逐次積層にはおよそ40mol%のVAmが必須であった(縮合剤は溶解性に問題により、カルボキシル基当り5mol%添加した)。膜厚測定の結果より、空気中に比べ水中で膜は厚くなり、調製した薄膜内に水が膨潤することでハイドロゲル構造となることが明らかになった。また、空気を用いた水中での接触角測定により、得られたハイドロゲル超薄膜がLCSTを有することも明らかとなった。これらはpoly(AAc)とpoly(VAm-co-NVIBA)の系に限るものではなく、poly(AAc-co-NIPAAm)とpoly(VAm)からなる系にも展開可能であった。
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