研究概要 |
正常細胞と癌細胞との生物学的差異はanchorage independent growthが前者では欠いており後者ではその能力を獲得しているという点である。肝細胞はASGPR(Asialoglycoprotein receptor)を細胞表面に発現しているので、これに特異的に接着するPVLAを固相化した細胞培養プレートを作成し、接着型の細胞培養システムを構築した。継代肝細胞株ARLJ301-1を使用して、poly-HEMA上での培養を懸濁状態での培養条件とし、PVLA上での培養を接着状態での培養とした。懸濁状態では細胞は2時間後よりアポトーシスにより死滅しはじめ、24時間では殆どが死滅した。一方PVLA上では細胞はプレート表面に接着し、生存した。その細胞形態はfibronectinやcollagenで表面を処理したプレートや通常の細胞培養用のプレート上でのそれと同一の形態を示した。増殖シグナルとしてまたアポトーシス回避シグナルとして考えられているERKやAktのリン酸化をimmunoblottingで解析したところ、ERKはアポトーシスでのみリン酸化が強く起こり、一方Aktはアポトーシスでも生存している場合でもリン酸化が同程度に生じていた。PVLA上でもこれらのパターンは同様であったため、PVLAを介した接着でも細胞はアポトーシス回避のシグナルを受容もしくは発生できることが判明した。またアポトーシスではcaspase3,9の活性化が生じていることも判ったが、PVLAでの接着時にもこのシグナルは抑制されていた。これらの結果は、通常のfibronectin/integrin系以外の細胞接着も懸濁状態で生じるアポトーシス(anoikis)を回避するために機能しうることを示しており、本当の細胞接着の意味を今後検討する必要がある。
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