本研究では種類、含量を種々変化させた官能基を有しながらも優れた温度応答性を有する高分子およびハイドロゲルを設計、合成しその生医学領域への応用展開を図る。本年度は、昨年までに確立した構造類似性に着目したモノマーの分子設計法に基づき合成された2-carboxyisopropylacrylamide(CIPAAm)を有するisopropylacrylamide(IPAAm)との共重合体を細胞培養用ポリスチレン上に電子線重合法により固定化し、その表面上での培養細胞の接着挙動ならびに脱着挙動を詳細に追求した。その結果、CIPAAmを導入することにより、血管内皮細胞を播種した後の接着性はCIPAAmを含まないIPAAmのみの表面と比較してほとんど変化せず、一方、低温処理による細胞の脱着は加速されることが見出された。これはCIPAAmを含む共重合体はアクリル酸などとの共重合体とは異なり、LCST以上に加温されると構造類似性のゆえにカルボキシル基を有していても十分に脱水和、疎水化するためであると考えられる。このカルボキシル基を利用して、細胞接着性因子を共有結合によって固定化し、これまで細胞接着が困難であった細胞種への応用展開を図る予定である。側鎖に一級アミノ基を有する2-aminoisopropylacrylamide(AIPAAm)を合成し、それとIPAAmとの共重合体を調製し、その温度応答挙動を検討した。この共重合体は前年度までに報告したカルボキシル基を有するCIPAAm含有IPAAm共重合体と比較して、若干相転移温度が水溶液に影響される結果となったが、アクリル酸などの構造が異なるコモノマーとの共重合体と比較して、比較的ホモポリマーと近いものであった。このアミノ基含有共重合体のアミノ基からアミノ酸無水物(NCA)を開環重合させ、側鎖にペプチド連鎖を有する共重合体を得た。さらにカルボキシル基をスクシンイミドで活性化させたCIPAAm-IPAAm共重合体と反応させて、架橋部分が生分解性であるIPAAmハイドロゲルを合成した。このハイドロゲルの平衡膨潤度を追及したところ、37℃付近で明確な体積相転移が観察された。 現在、酵素分解性、モデル薬物の内封およびその放出挙動を検討している。
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