研究概要 |
今年度の研究では、いくつかの新知見が得られたが、磯焼けの海底で採取した海水からの微量有機化合物の簡便で効果的な分析法は、今までのところ確立できていない。また、紅藻無節サンゴモ(エゾイシゴロモ;Lithophyllum yessoense Foslie)の培養液からのグリセロ糖脂質の検出にも成功していない。 1.ウニ浮遊幼生の着底・変態を誘導する活性をもつグリセロ糖脂質(MGDG, MGMG, SQMG, DGMGなど)をサンゴモから分離し、これらグリセロ糖脂質の脂肪酸組成を明らかにするとともに、キラルHPLCでC2位の絶対配置をS配置(sn-1,2-diacyl-and sn-1-monoacylglycerols)と決定した(Lipids,36,741(2001))。さらに、LC-MSで分子種を決定した(論文作成中)。 2.磯焼けの海底でウニやアワビなどの植食動物と同所的に生育している紅藻ソゾ属の海藻や褐藻アミジグサおよびケウルシグサなどは、テルペンなどの摂食阻害物質を含有しており、植食動物に対する化学的防御機構を備えていることを明らかにしてきた。このことは、これらの海藻が幼配偶体や幼胞子体の段階ですでに化学的防御機構が備わっていることを示唆している。そこで、北海道忍路湾で採集したウラソゾ(Laurencia nipponica Yamada)の四分胞子体および雌性配偶体を採集し、それぞれから四分胞子および果胞子を放出させ1日(24時間)後、4日後、7日後の培養サンプルを分析したところ、胞子放出後1日目の発芽体ですでに摂食阻害活性を有する含ハロゲン化合物を生産していることがNMRスペクトルで確かめられた。このようにソゾ属の海藻は、摂食阻害物質である含ハロゲン代謝産物を発生初期より生産し、含有することで植食動物による摂食を免れる防御機構を備えていることが明らかとなった。
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