研究概要 |
2年間に亘って行った本研究では、いくつかの新知見が得られたが、磯焼けの海底で採取した海水からの微量生物活性物質の簡便で効果的な分析法は、今までのところ確立できていない。 1.紅藻無節サンゴモ(エゾイシゴワモ;Lithophyllum yessoense Foslie)上から付着珪藻(21種)とバクテリア(19種)を分離し、ウニ浮遊幼生の着底・変態を誘導する物質を探索した。遊離脂肪酸画分やグリセロ糖脂質(MGMG, SQMGなど)画分に活性がみられたが、珪藻やバクテリア共に単離した株は、混合株と比較すると活性が低下するのが認められた。このことから、海底での生物種間の相互作用を支配している物質の分離法を改良する必要があると思われる。 2.サンゴモから分離したグリセロ糖脂質(MGDG, MGMG, SQMG, DGMGなど)の脂肪酸組成を明らかにするとともに、キラルHPLCでC2位の絶対配置をS配置(sn-1,2-diacyl-and an-1-monoacylglycerol)と決定した(Lipids, 36, 741 (2001))。さらに、栽培漁業センターのウニ種苗生産の工程で使用されているアワビモ(Ulvella lens)由来の糖脂質の分子種を決定した(Marine Biology, 140, 763 (2002))。 3.無節サンゴモの培養液からのウニ浮遊幼生の着底・変態を誘導する活性をもつグリセロ糖脂質などの活性物質の検出にも成功していない。 4.北海道忍路湾で採取したウラソゾ(Laurencia nipponica Yamada)では、四分胞子および果胞子を放出後1日目の発芽体ですでに摂食阻害活性を有する含ハロゲン化合物を生産していることが確かめられた。このようにソゾ属の海藻は、摂食阻害物質である含ハロゲン代謝産物を発生初期より生産し、含有することで植食動物による摂食を免れる化学的防御機構を備えていることが明らかとなった。
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