エクチナサイジン743(Et743)はカリブ海原産の群生ホヤ(Ecteinascidia turbinata)より単離された、強い抗腫瘍活性を有する海洋産アルカロイドである。この化合物は、各種のガン細胞に対し顕著な効果が見られ、欧米10数カ国における第2臨床試験の好成績の結果、海洋天然物としては、初めての抗ガン剤となることが目前となっている。現在、Et743の供給はホヤの大量養殖に依存しており、安定かつ大量供給が可能な合成法の確立が強く望まれている。昨年、我々はEt743の収束的かつ立体選択的な合成法を開発した。今年度は、この合成法を基盤として合成ルートの段階数の削減に成功した。まず、適切な保護基(Bn基)を有する左セグメントの新規合成法の確立に成功した。この方法は不斉点を触媒的に導入していることが特徴である。さらに、右セグメントとのUgiの成分連結反応による縮合を行った後、保護基を変換することなく2回の環化反応を行い、重要中間体を得ることに成功した。今回の合成の改良は、Et743の工業的な製造を考慮すると意義が大きいと考えている。
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