カビ毒であるアフラトキシンは天然物質で最強の発ガン性を有し、アフラトキシン生産菌の感染による農作物のアフラトキシン汚染は食の安全性にとって極めて深刻な問題である。しかし、現在効果的なアフラトキシン汚染防除法は無い。防除法の開発にはアフラトキシンの生産機構の詳細を解明することが重要であるが、二次代謝であるアフラトキシン生産を開始させる一次代謝での調節機構は不明である。本研究ではアフラトキシン生産菌の一次代謝調節系に作用しアフラトキシン生産を特異的に阻害する薬剤アフラスタチンA(AsA)の作用機構解析をとおして、アフラトキシン生産調節機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。昨年度までにAsAはAspergillus parasiticusの炭素代謝系、特にグルコース代謝を大きく変化させることを見出した。本年度、種々のラベルAsAを作製し、AsAの標的分子の同定を試みる過程で、AsAの添加によりA. parasiticusの内在性ビオチン酵素量が大きく減少する現象が見られた。そこで、ビオチン酵素代謝系の鍵酵素であるビオチンをアポプロテインに結合させるビオチンアポプロテインリガーゼ(BPL)に対するAsAの阻害活性を調べることにした。基質を大腸菌大量発現系で調製し、A. parasiticusの菌体抽出液を粗酵素液として酵素反応を行ったところ、AsAは5μg/mlでBPL活性を阻害した。ビオチン酵素にはアフラトキシン生合成の原料となるマロニルCoAを生成するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)が含まれ、AsAはBPLの阻害により活性型ACCを減少させ、マロニルCoAの供給を停止することによりアフラトキシン生産を阻害する機構が示唆された。現在、BPLをコードする遺伝子をA. parasiticusから取得し、大腸菌での発現酵素を用いてAsAの阻害活性を調べている。
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