研究概要 |
生物にとって外界と自己を仕切る膜脂質は非常に重要な役割を果たしている。真正細菌、真核生物とは異なる第三の生物群として分類される古細菌は、海底火山や塩田などの高温・高圧・高塩濃度・酸性などの環境に生息しており、このような環境で生息していくにはその膜脂質の重要性はなおさらのことである。古細菌の膜脂質は他の生物群とは異なり、イソプレノイド鎖がグリセロールとエーテル結合した特異な構造をしている。更に一部の古細菌には36員環、72員環の大環状脂質も存在する。これらの化合物はイソプレンユニットの"Head-to-Head"結合で分子内あるいは分子間で結合しており、生合成的観点からも非常に興味深い。 既に我々は、大環状脂質を有する好熱性メタン生産古細菌Methanococcus janaschiiおよびMethanobacterium thermoautotrophicumにおける完全重水素化メバロン酸の取り込み実験を行い、イソプレニル鎖の還元の前に二重結合の立体特異的な異性化が起きていることが明らかとしている。そこで他の好酸好熱性古細菌であるThermoplasma acidophulum(至適pH=2、至適温度55℃)について、同じく完全重水素化メバロン酸の取り込み実験を行った。その結果、大環状脂質の^<13>C{^1H,^2H}NMRの解析により、大環状脂質の注目する炭素-炭素結合を形成する16位メチレン炭素において2つの重水素の保持が見られた。好酸好熱性古細菌でも環化反応の際のアルデヒドやカルポン酸のような高酸化状態の中間体が否定でき、併せて大環状脂質の生合成メカニズムもメタン菌と同様であると推定できた。これらの結果から大環状脂質生合成機構を推定した。すなわち、メタン菌および好酸好熱性古細菌でもゲラニルゲラニル基の二重結合が異性化し、最終的に二重結合の還元が起こる際に、分子間で炭素-炭素結合が生成する機構と考えられる。現在この推定機構を検証すべく新たな取り込み実験を行っている。
|