研究概要 |
フグ毒テトロドトキシン(TTX)は、古くから知られている非常に有名な海産天然毒だが、生合成や食物連鎖によってフグに蓄積する機構、この毒の標的タンパク質であるナトリウムチャンネルとの結合構造など未だ解決されていない重要な問題が残されている。本研究ではこれらの問題を生物有機化学的な精度で解決するために、適切に標識されたTTX誘導体の完全化学合成による供給と、それを用いた解析を目指している。 今年度は、1999年に我々がその合成を報告した(-)-5,11-dideoxyTTXの合成法を基盤にして、天然TTX類縁体である11-deoxyTTXの全合成を達成した。すなわち、5,11-dideoxyTTXの合成中間体から、エポキシドの位置選択的なアリルアルコールへの異性化反応と、水酸基の酸化還元による反転によってシクロヘキサン環上の水酸基を整え、末端ビニルの官能基化によってラクトンを合成した。グァニジンは、トリクロロアセトアミドを使った独自の方法によって導入し、11-deoxyTTXの全合成にはじめて成功した。この化合物は、TTXの約5分の1の生物活性をしめし、オルトエステルなどTTXの構造上の全ての特徴を持ち合わせている化合物なので、今後の他のTTX類縁体の合成の基礎となるものと考えられる。 現在、この結果をもとにして8,11-dideoxyTTXの合成を行っており、その最終段階にある。この分子は、天然には存在しない類縁体であり、今まで全く知見のなかった8位水酸基と生物活性との関係を明らかにしてくれるはずであある。
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