研究概要 |
光学活性第二級アルコールは、有用生理活性物質およびその合成の鍵となる中間体の部分構造として数多く見受けられる。とくに、光学活性なα-、β-およびγ-アミノアルコール類とその誘導体は、薬剤としてもっとも活躍している化合物群の一つであり、次代の新薬として期待される多くの化合物が臨床で試験されている。本研究者はこの事実に鑑み、光学活性アミノアルコール類の効率的かつ一般性の高い不斉合成法の開拓を計画した。光学活性アミノアルコール類のもっとも直接的な合成法の一つに対応するアミノケトン類の不斉水素化がある。本研究者は、すでに光学活性ホスフィンとジアミンを配位子とするルテニウム錯体触媒を用いて、様々な芳香族ケトン類およびα,β-不飽和ケトン類の高エナンチオ選択的水素化に成功している。この方法論が種々のアミノケトン類の不斉水素化に適用できれば、一般的かつ効率的な光学活性アミノアルコール類の合成法になりえると考えて検討を行った。 2-[(アルキル)(ベンゾイル)アミノ]アセトフェノン類の水素化をtrans-RuCl_2[(R)-xylbinap]-[(R)-daipen]を触媒前駆体に用いて、塩基の存在下で行ったところ、対応するα-アミノアルコールが99%の極めて高い鏡像体過剰率で得られた。この反応を基軸として、強心薬の(R)-デノパミンの合成に成功した。β-(ジメチルアミノ)プロピオフェノンは、塩基の存在下でアミノ基が容易に脱離するため、水素化の困難な基質であったが、塩基の使用を最少量に抑える工夫をすることにより、対応するβ-アミノアルコールを97.5%の鏡像体過剰率で得ることができた。この手法を用いて抗鬱剤として実用されている(R)-フルオキセチンの合成に成功した。さらに精神病薬として期待される、γ-アミノアルコールのBMS 181100を99%の鏡像体過剰率で合成できた。
|