研究概要 |
海洋の発光生物には,オワンクラゲ・ウミシイタケ・深海エビ・ウミホタル・ホタルイカ・魚類など,発光基質ルシフェリンとしてイミダゾピラジノン骨格をもつ物質を用いている例が数多く知られている。しかしながら,これらルシフェリンの生合成経路は判っておらず,また合成している生物が何なのかも一切明らかにされていない(例えば,オワンクラゲはセレンテラジンを生合成できないことが調べられている)。本研究では,ウミホタルをモデルに,この問題解決に取り組んだ。ウミホタノレルシフェリンは1966年,岸・後藤・平田・下村・Johnsonによって構造が決定され,その構造から3つのアミノ酸(トリプトファン,イソロイシン,アルギニン)から生合成されるであろうことが当時より示唆されていた。今回はこれを直接的に証明するために,重水素ラベルしたトリプトファンを生きたウミホタルに取り込ませる実験を行った。重水と重塩酸を用いてインドール環部の水素5つを重水素で置換したトリプトファンを合成し,これを寒天に固めてウミホタル生体に与えた。投与開始6日後,ウミホタル6個体からエタノールによる抽出操作を行ないLC-MSで解析したところ,ルシフェリンのシグナルに5つの重水素の取込みが明確に観測された。これは,イミダゾピラジノン型ルシフェリンがアミノ酸から生合成されていることを直接示した最初の例となる。また,イミダゾピラジノン型ルシフェリンを自ら生合成している生物がひとつ明かとなった点でも意義が大きいと思われる。
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