研究概要 |
発がんプロモーターの主要なレセプターは、プロテインキナーゼC(PKC)である。PKCは、11種類のアイソザイムよりなり、それらの機能および組織局在性は大きく異なっている。最近、novel PKCアイソザイム(δ,ε,η)の発がんプロモーションへの関与が発生工学的手法によって示唆されているが、PKCの活性をアイソザイムレベルで選択的に制御できる薬剤がほとんどないため、発がんプロモーションの機構には依然として不明な点が多い。本研究では、PKCアイソザイム間でのリガンド認識能の違いを明らかにし、その知見に基づき、特定のnovel PKCアイソザイムに選択的に結合する薬剤の開発を目的としている。 昨年度の研究により、インドールアルカロイド系の発がんプロモーターである(-)-indolactam-V(1)の9員環ラクタム部分のアミド水素を消失させた誘導体が、novel PKCアイソザイムに対して結合選択性を示す可能性が示唆された。そこで、1の活性型コンホメーション固定アナログであるベンゾラクタムV8(2)のエステル型誘導体4種の合成を行った。これらの化合物は、活性型であるsyn型のコンホメーションをとっていることがNMRおよび分子動力学計算によって明らかになった。そこで、これらの全PKCアイソザイムに対する結合能を、PKCの発がんプロモーター結合部位(C1ドメイン)を化学合成したモデルペプチドを用いて評価した。その結果、いずれのラクトン体も対応するラクタム体と比べてnovel PKCアイソザイムに対して高い選択性を示した。特に8-decylbenzolactone-V8は、顕著なPKCη選択性を示した。以上の結果より、1および2のアミド水素の水素結合供与体としての働きを除去することによってnovel PKCアイソザイムに対する選択性が高められることが実証できた。 さらに、PKC以外の新規発がんプロモーター受容体を明らかにする目的で、PKC C1ホモロジードメインを持つジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)を精査したところ、DGKγがPKCに匹敵する高いホルボールエステル結合能を有することを初めて見いだした。
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