これまでの実験から、(i)胎児脳組織で損傷を受けた脊髄組織の修復が促されること、(ii)胎児脳エクストラクトで再生例が著増すること、(iii)胎児脳エクストラクトに細胞内カルシウム動態を変容させる効果のあることを確かめている。本年からは、特に胎児脳エクストラクトのなかから脊髄伝導路の軸索再生に促進的作用をもつ分子を単離することにも注力している。脊髄再生を成功に導くような因子はいくつかあるが、そのうちのひとつは、グリア細胞が脊髄切断後に死滅することなく、軸索再生をあたかも助けるかのように軸索伸長方向に配向するようになることであるのが明らかとなってきた。これに依拠して、(a)ラット胎児グリア細胞を培養し、その培養グリアそのものをラット脊髄損傷モデルにおける脊髄断端に注入すること、(b)胎児脳エクストラクトの中から軸索再生に促進的作用をもつ分子を単離するためのアッセイシステムとして、培養グリア細胞膜上にある種のチャンネル系分子が発現することを指標として採用して、胎児脳エクストラクトを細分画化していくこと、の両面から取り組んできた。(b)については、このチャンネル系分子がグリアに発現することと脊髄再生との関連性を理論的に説明することは今のところ容易でないものの、実験的には一部の細分画に関して、これがチャンネル系分子を発現させ、かつラット脊髄損傷モデルにおいて脊髄断端注入後に脊髄再生を著明に促進させる、という活性の相関性を持つことを確認することができた。これを端緒に、さらなる細分画化から分子の単離へと進めたいが、生きている動物でのアッセイを随所にはさむ必要もあることから急速に進展させにくいことが難点ではある。上記(iii)については、本年より、脊髄再生との関連のより明確な培養アッセイシステムを開発すベく務めている。
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