研究概要 |
海産の無脊椎動物であるホヤは、血球の種シグネットリング細胞(バナドサイト)の液胞内にバナジウムを高濃度に濃縮している。バナジウム濃度は最高で約350mMで、濃縮係数が1,000万倍に達するという特異な生理現象である。海水中のバナジウムは鰓あるいは腸を経由して血液中に入った後にバナドサイトに取り込まれると考えられる。その各過程にはバナジウムと親和性を持つ物質あるいは還元物質が関与すると思われる。本研究ではホヤの血漿中および血球中に存在する、バナジウム結合能を持つ新規タンパク質の同定を行なった。 バナジウムキレートカラムを用いて、バナジウム濃縮細胞の細胞膜画分から4.5kDaのタンパク質を同定した。このタンパク質に対応するcDNAが我々の持つESTデータベースから見つかり、全長42アミノ酸の未知のタンパク質であると推定された。このタンパク質に対するポリクローナル抗体を作製した。 同様の手法で、血漿から20kDaのタンパク質を同定した。N末端配列を決定した後、RACE法により全長をコードするcDNAを単離した。予想されるアミノ酸配列は既知のVanabinファミリーと非常に相同性の高い配列であった。 血球の可溶性画分をゲル濾過によって分画することにより、Vanabinよりも小さい分子量の位置にバナジウムのピークを3つ(A,B,C)同定した。ピークCは血球由来の黄色色素成分も含んでいた。これらの画分に含まれるバナジウムに由来するESRシグナルを解析したところ、ピークAはVanabinに結合した4価バナジウムとよく似たシグナルを与えた。ピークBもまた、Vanabinに結合した4価バナジウムとよく似たシグナルであったが若干ブロードであった。一方、ピークCは異なるシグナルを示した。
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