研究概要 |
申請者はアコヤ貝斃死の原因解明を目的として研究を展開し,これまでに以下のことを明らかとした. 病貝抽出物の分析を行ない,病貝に特異的に蓄積されている赤化原因色素アロキサンチンと6種のコレステロール類縁化合物を単離し,これらの物質が病気の結果として蓄積されていることを確認した.また病貝の抽出物には血球の崩壊を誘発する活性と,稚貝に対する致死活性が確認された.そこで,病貝由来の血球崩壊活性と稚貝致死活性を示す物質の探索を中心に進めた. 愛媛県にて採集した病貝1000個体をエタノール抽出した後,血球の崩壊活性と稚貝に対する致死活性を指標として分離精製を進めた結果,活性物質はODSカラムクロマトグラフを用いたとき,共に90%メタノール水溶液で溶出される画分に集中していた.さらにこの活性画分を精製し,NMRスペクトルを測定したところ,多くの酸素官能基を有する脂肪酸類縁体の混合物であると推定された.現在,この画分についてさらに精製を進めており,今後は健康貝との比較も進めていきたいと考えている. 先に述べたように,血球崩壊活性および殺稚貝活性の確認された画分には脂肪酸および,酸素化された脂肪酸と推定される物質が確認された.さらに病貝では血管周辺の細胞での損傷を観察している.このことより,病貝の症状としてラジカルによる損傷の機構が推定された.そこで,一連の過程において発生するマロンジアルデヒド(MDA)を簡便なチオバルビツール酸(TBA)法を用いて観察した.健康貝と病貝の抽出物について比較を行なったところ,病貝にのみMDA活性が確認された.現在までに,シリカゲルカラムクロマトグラフにおいて,CHCl_3で溶出される画分にMDA活性があることを確認している.今後は先の,殺稚貝活性画分との比較ついても検討を進めてゆく 以上の結果について,2002年3月に日本化学会春季年会において発表する.
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