ガングリオシドは細胞膜の構成成分として神経系に多く存在し、細胞の相互認識、接着、分化、レセプター機能、神経機能の調節など、基本的且つ動的な生命現象に深く関与する重要な生理活性生体成分であることから、その生物機能の分子レベルでの解明が急がれている。また、このようなガングリオシドの機能に着目して、神経障害の治療への応用が検討されている。一方ガングリオシドは脊椎動物に広く存在するが、無脊椎動物においては、再生能を有する棘皮動物にその存在が集中していることから、その生物機能に興味が持たれる。本研究は棘皮動物ガングリオシドの機能解明の基礎研究として、広く棘皮動物ガングリオシドを単離、構造決定し、生物活性を調べ、更にそれらの生体内分布を明らかにすることを企図するものである。本年度は主に、棘皮動物ガングリオシドの単離・構造決定とそれらの神経突起伸展作用の評価を行うと共に、その生体内分布について検討した。 材料動物のクロロホルムーメタノール抽出エキスを精製し、ガングリオシドを単離した。単離したガングリオシドの化学構造は化学的手法と質量分析(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等の機器分析的手法を併用してセラミド部の詳細に至まで決定した。その結果、ヤツデスナヒトデからは新規ガングリオシドLMG-3、アオヒトデからは新規ガングリオシドLLG-5、シカクナマコからは新規ガングリオシドSCG-3を得た。 次に上記棘皮動物ガングリオシドについて、ラット褐色腫由来細胞PC-12を用いて神経突起伸展作用を評価した。その結果、LLG-5、SCG-3はPC-12細胞に対して神経突起伸展活性を示した(LMG-3は未検討)。 更に、オニヒトデ由来ガングリオシドAG-2に対するモノクローナル抗体を作成した。この抗体を用いてTLC免疫染色法によりAG-2のオニヒトデにおける生体内分布を検討し、消化器系組織にAG-2を検出した。
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