研究概要 |
動物には様々な色のついた汗をかく種がある.カバは赤い色の汗をかくことが知られている.正確には,無色の汗が分泌されたあとに赤い血のような色にすばやく変色し,その後次第に褐色物質に変化してしまうものである.この赤色色素がカバを紫外線や菌の感染から守っていると言われているが,詳細はわかっていない.上野動物園の協力により,カバの顔と背中からガーゼで汗を採取した.無色の汗が数分で赤色に変色した.この極めて不安定な赤色物質をガーゼから熱湯で抽出した.この色素水溶液は完全に濃縮すると重合して褐色物質に変化してしまうため,抽出した水溶液(pH 10)は約4分の1までの濃縮にとどめた.これをゲルろ過し,褐色溶液,オレンジ色溶液,赤色溶液に分離した.赤色溶液は,イオン交換により精製した.この精製により赤色物質はさらに不安定になったが,^1H NMRスペクトル(D_2O)測定の結果,6〜7ppmに水素3個分のピークが観測された.しかし,それ以外に不純物由来とも考えられるピークも存在し,これ以上の解析は困難であると考え,不安定な赤色水溶液を誘導体に変換することにした.すなわち,赤色水溶液にNa_2S_2O_4リン酸バッファー溶液を加え還元した.無色になった溶液を塩酸で酸性にしたのち,酢酸エチルで抽出した.有機相にジアゾメタンを加えその後濃縮した.さらに,シリル化したのち,シリカゲルTLCにより分取した.得られたサンプルについて,MS,^1H NMR(benzene-d_6),^<13>C NMRを測定した.その結果,この誘導体は分子量は602であり,OMe基3個,OTBS基2個,芳香族水素3個,メチレン水素1個(2H),メチン水素1個,フェノール性水酸基1個が存在することがわかった.なお,^<13>C NMRは,微量ゆえ正確には判断できなかった.微量ではあったが得られた化合物の再結晶化を試みた結果,メタノールから結晶化され,その結晶のX線結晶構造解析の結果,fluorene類であることがわかった.
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