アシルCoAは脂肪酸代謝、脂質代謝に重要かつ中心的な役割を担う物質であるが、近年、アシルCoAが一見、脂肪酸代謝とは全く無関係な系にも重要な役割を演じていることが徐々に明らかとなっている。アシルCoAの産生経路としてはアシルCoAシンセターゼ(ACS)が知られており、ATPのエネルギーを利用して、遊離脂肪酸をアシルCoAへ変換する。一方、私たちのグループは、哺乳動物細胞、組織の膜画分をCoAとインキュベートすると相当量のアシルCoAが生成することを発見した。このアシルCoA合成反応はATPを必要としないことからACSと全く異なるもので、新規合成経路といえる。アシルCoAと同時にリゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルイノシトールなどのリゾリン脂質が生成することから、リゾリン脂質を基質とするアシルトランスフェラーゼの逆反応により触媒されるという作業仮説を立てている。 本研究の目的のひとつはATP非依存性アシルCoA合成に関与する酵素の性状を明らかにすることである。前年度の研究で、リコンビナントリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)を用いた解析により、LPAATに、ホスファチジン酸を基質としたATP非依存性アシルCoA合成活性が観察され、LPAATに関しては仮説が正しいことが証明された。今年度は、作業仮説を真のものと証明するために、これを他のリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼに適用することを試みた。LPAAT以外のアシルトランスフェラーゼはクローン化されていないので、リゾホスファチジルイノシトールアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)の精製を行った。ラット肝臓ミクロソームより、LPIATを部分精製すると、同時にホスファチジルイノシトールを基質としたATP非依存性アシルCoA合成活性が精製された。同時にCoA依存的なリゾホスファチジルイノシトールの産生反応も観察された。これらの結果はLPIATに関しても仮説は正しいことを示している。
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