本研究目的は、視覚蛋白質オプシンのリガンドである11Z-レチナールとその13位周辺に位置するオプシンアミノ酸残基との相互作用を調べるため、共役したペンタエン構造を有し13位を修飾した11Z-レチナールを立体化学を制御して合成することである。 平成14年度の本研究において以下のような新しい成果を得ることが出来た。 (1)有機合成としての第一の成果は、扱いが困難であったこのトリエニルホウ酸を用いて鈴木反応が可能になり、11Zタイプのレチノイドのみならず11位および13位他の立体異性体を含むレチノイド類の新規な合成法を確立できたことである。 (2)第二の成果は、13位にアリール基および環状エノンが置換した11Z-レチナール誘導体を選択的に合成できたことである。 (3)合成されたレチナール誘導体とオプシンとの結合実験を行なった。13位アリール置換11Zレチナールを合成したが、これらとオプシンとの結合形成は11Zレチナールの10分の1以下であったことから13位周辺の構造はかなりタイトなものであることが分かった。一方、9位上の置換基も立体的に嵩高いものでは結合能力は極端に低下するが、ある程度折れ曲がる置換基構造では若干取り込まれることから、次に13位と15位をメチレンユニットで環状に整えたエノンを合成した。ケトンとイミン形成はアルデヒドに比較してかなり遅いが、もしオプシンに取り込まれれば、296リジン残基とのイミン形成も可能と考えた。しかしながら、オプシンとの結合実験を行ったが、取り込みも弱く、リジンとの結合も行わないことが分かった。以上の結果から、11Zレチナールが取り込まれる13位周辺はメチル基だけが鍵のごとく収まるかなり制限された立体構造を保持していると揺測され、周辺蛋白質の柔軟性は期待できない構造を取っていることが判明した。
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