研究概要 |
本研究課題においては,高速配線網における信号遅延や反射,クロストークを詳細に解析可能とするシミュレータの構築を目指した.このことを実現するために,配線網を3次元構造として扱いながら,次の2つのアプローチを採用した.すなわち,1)時間領域差分法(FDTD)を用いた電磁界解析手法による詳細解析 2)配線網のRLCメッシュモデル(集中定数)による詳細解析 である. 1)によるアプローチの場合,電磁界効果を詳細に解析できる反面,通常の集中定数系シミュレータに比べて,膨大なシミュレーション時間を要する.従って,配線網の分割手法や並列分散処理によるシミュレーションの高速化を目指した. 2)によるアプローチでは,SPICE系シミュレータの利用が可能となる.その一方,回路要素が3次元的に構成されるため,インターコネクトを含む回路内の要素数が膨大となり,1)によるプローチ同様,そのシミュレーション時間が非常に膨大となる.そこで,線形回路の極近似手法に基づく回路の縮小化について検討した.この手法では,伝達関数を有理関数として近似した後,主要な支配極とそれに対応する留数を求めることで,ラプラス領域での減次モデルを作成する.このモデルを時間域モデルに変換することにより,SPICE系シミュレータに実装する事を目指した. 以上の結果として,配線の高密度化と高周波によるクロストークや信号の遅延・反射等の影響を含めた正確な配線網シミュレーションが可能となった.このことは,基板,配線を含んだ形での回路シミュレーションが可能となることを意味し,実質的なシグナル・インテグリティの検証システム構築に向けての基盤技術となる. 今後,集中定数,分布定数,電磁界効果を検証可能とするアナログ/ディジタル混合信号マルチレベルシミュレータの構築を目指す.
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