通常のレーザや光増幅器は、材料中の電子エネルギー準位間での電子遷移を利用して、光の誘導放出を行っている。このため、発振や増幅できる波長は、材料固有のエネルギー準位で定まっている。また、素子中の前進波と後退波の両者に対して可逆的な増幅特性を有している。 本研究では、新しい光増幅器の原理として、真空中を走行する電子ビームによる光増幅器の開発を行っている。自由空間中を走行する電子波の運動エネルギーを利用するので、原理的にはマイクロ波からX線領域までの超広範囲において、一方向性の電磁波増幅が可能である。 誘電体導波路を伝搬する光は、導波路の屈折率の為、自由空間での光速より遅くなる。また、光は誘電体導波路から外界に一部を染み出して走行する。電子ビームを誘電体導波路の表面に沿って伝搬させ、電子ビームの速度を導波路中を伝搬する光の速度に一致させると、染み出している部分を通じて、電子ビームのエネルギーが光に移り、光が増幅される。以上が本光増幅器の動作原理である。 昨年度までの各種予算により最初の実験装置を作製した。a-Si蒸着膜をコア層とする誘電体導波路で、導波光の増強を観測した。増強するTM波の電子加速電圧依存性はほぼ理論計算と一致し、提案している現象であろうと推測している。しかし、TE波も増強している為、材料での光吸収と発光が特性に関与している可能性を検討している。実験は真空チャンバー内で行うため、電子ビームと光導波路との位置調整が難しい。そこで、本年度の予算で外部から微調整が可能な新しい実験装置を作製した。
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