スピンは円偏光と相互作用を持つので、円偏光を用いて半導体中に任意のスピン偏極を生成することや、逆に半導体中のスピン偏極を円偏光に変換することが可能である。このため、光とスピンを結合させれば、スピンの自由度を利用した新しい光半導体デバイスやシステムを実現できる可能性がある。スピンの応用としては、隣接する量子ドット間の交換相互作用を利用してスピンを制御する量子コンピューティングが提案されている。結合した量子ドット間では反強磁性結合が生じると理論的に予測されているが、量子ドット間でこの演算を実現するほどの大きな交換相互作用が働くかどうかは実験的に検証されていない。本研究では、超高速スピン応答デバイス実現の観点から、量子ドット間の交換相互作用によるキャリアのスピン反転について調べた。 実験では、時間分解フォトルミネッセンス測定によって、半導体結合量子ドット間の反強磁性結合の観測に初めて成功した。また、この反強磁性結合は、50-80K以下で存在することが確認された。これによって量子ドット間の交換相互作用のエネルギーがマイナスであることが明らかになり、また、量子ドットのスピンを操作することによって隣接するドットのスピンを制御し得ることが明らかになった。ハイトラー・ロンドン近似を用いて交換相互作用を見積もると、バリア幅8nmと10nmで、シングレットとトリプレットのエネルギー差は、0.58meV(6.7K)と0.12meV(1.4K)となり、実験と比較的よい一致を示した。これらの結果は、電子スピンを利用した超高速スピン応答デバイスに道を開く結果として極めて重要である。また、スピンの操作と検出に円偏光を用いており、光とスピンを結合させた系として量子コンピューティングなどへの今後の発展が期待される。
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