内分泌攪乱物質によるヒトへの悪影響が科学的に確認されない現状において、その影響を定量的に評価するための枠組みを、化学物質による発癌リスクを評価する枠組みを援用して構成した。経気道・経口経路による外部曝露を、PBPKモデルを用いて、生物学的な曝露が問題になる臓器・組織レベルでの内部曝露に変換し、分子・細胞レベルでの基礎研究や実験動物を用いた実験の成果をヒトに外挿推定する際に問題になる「種差」を、分子・細胞レベルでの感度比を用いて補正する。高濃度曝露での実験結果を環境レベルで問題になる低濃度長期曝露状態でのリスクに外挿推定する問題はなお今後の課題である。 内分泌攪乱が疑われるDDTおよびその代謝生成物質DDEに注目し、上記のリスク評価枠組みを適用した。わが国においてDDTの使用が禁止された1970年代以降の期間について、環境中での動態評価、ヒトへの外部曝露評価を実施し、別途構築したDDT/DDEのPBPKモデルを適用し、臓器・組織の内部曝露量、胎盤経由の胎児移行量の評価を試みた。DNA・細胞レベルでの種差を定量評価する実験的可能性を、ベンゼンの代謝生成物質であるハイドロキノン等を用いて、シャトルベクター試験系を適用して確認した。 最終的な評価対象物質であるビスフェノール-A(BPA)の放射性標識化合物をマウスに投与し、その体内分布ならびに胎児への移行・蓄積を把握するための基礎実験を実施し、マウスPBPKモデルを構築するための基礎データを収集した。BPAは胎盤を経由して速やかに胎児に移行すること、BPAのグルクロン酸包合体への代謝速度は、母胎中に比べて胎児中では小さく、BPAは胎児中に蓄積する傾向があること、胎児中の臓器・組織では特に生殖器・脳への蓄積割合が母胎中に比べて相対的に大きいこと等を確認した。
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