内分泌攪乱化学物質の毒性メカニズムの解明を目的として、性ホルモンにより誘導される両生類の性転換現象の解析を行った。材料には雄へも雌へも性転換するツチガエルの広島集団を用いた。まず、性ホルモン作用の臨界点を解析したところ、男性ホルモン(アンドロゲン)による雌から雄への性転換は、ステージXXV〜変態後1.5ケ月、0.001〜0.01μg、2〜4日間処理の間でそれぞれ臨界点が認められた。一方、女性ホルモン(エストロゲン)による雄から雌への性転換に関しては、ステージIII〜IV、0.265〜2.65nM、5〜10日間処理の間でそれぞれ臨界点が認められた。次に、性転換過程における組織変化を調べたところ、アンドロゲンでは処理後16日目に、一方、エストロゲンでは処理後4〜8日目に体細胞および生殖細胞に顕著な変化が認められた。性ホルモンは、その特異的な受容体に結合した後、遺伝子の転写活性を変化させ、様々な生理現象を引き起こすと考えられている。そこで、ツチガエルのアンドロゲン受容体およびエストロゲン受容体のcDNAを単離し、性転換過程における受容体遺伝子発現の変化をRT-PCR法により調べた。その結果、性転換過程における遺伝子発現レベルに顕著な変化は認められなかった。また、性転換が誘導されない発生時期においても受容体遺伝子の発現が認められることから、受容体以降の性ホルモン作用機序も重要であると考えた。そこで、デイファレンシャル・ディスプレイ法およびin situハイブリダイゼーション法を用いて、性転換過程において発現パターンが変化する遺伝子を網羅的に解析した。現在、アンドロゲン作用については221個の遺伝子について、またエストロゲン作用については15個の遺伝子について解析を終えている。今後、さらに多くの遺伝子について解析を行い、将来はマイクロアレー技術を用いて、内分泌攪乱化学物質の毒性メカニズムの解析を行う予定である。
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