研究概要 |
生体試料中ダイオキシン類の分析に関して,現在のマニュアルではアルカリ分解法が採用されている.しかしながら室温アルカリ分解では,試料の分解が不完全になりやすいためエマルジョンが発生しやすく,また高塩素化PCDFs(特にOCDF)の分解による損失も抑制しきれていないのが現状である. 大高,牧野(第10回環境化学討論会講演要旨集,128-129,2001)によって報告された,ピロガロール添加-加熱アルカリ分解法は,内標準物質の回収率が良く,蛋白質が充分に分解されるためエマルジョンも発生しない.しかしながらその分解液組成では,脂肪は分解不充分のまま残ってしまう. そこで,ピロガロール添加-加熱アルカリ分解法を検証すると共に,ダイオキシン類の分解による損失を抑制しつつ,同一条件にて蛋白質と脂肪の両方を分解でき,しかも夾雑物の大幅な除去が可能となる分解条件の検討を行った. 様々な分解液組成による検討を行った結果,以下の方法が最も効果的であることを確認した.300mlねじ口三角フラスコに試料50g(細切し,充分にすり潰したもの)をとり,内標準物質を添加し,水25mlを加えてよく混ぜる.次に30g/Lピロガロール/エタノール溶液75mlと60%KOH水溶液50mlを順番に加えて速やかに密栓し,激しく攪拌する.50℃の湯浴中で時々激しく攪拌しながら15分間加熱した後,直ちに氷冷し,ヘキサンで3回抽出し,水洗する. 上記の条件により,魚,鶏肉,豚ミンチ,タコ,鯨の脂皮などのいずれの試料においても,蛋白質と脂肪の両方を分解でき,抽出液を多層シリカゲルカラムに直接添加することが可能であったことから,精製工程の省力化にも貢献することがわかった.また,ピロガロールの効力は衰えておらず,ダイオキシン類の分解による損失を抑制できていることが回収試験の結果より確認できた. 本研究により確立された生体試料中ダイオキシン類の分析法は,高効率抽出と簡素化を同時に解決できるといえる.
|