内分泌撹乱作用が懸念される非常に多数の既存化学物賓を、迅速にスクリーニングする方法が必要とされている。我々は最近、エストロゲン様作用が疑われる化合物500種類について受容体結合試験を実施し、結合親和性がノニルフェノールよりも数十倍から数百倍も強い化合物数種を見い出した。しかしながら、これら化学物質の内分泌撹乱作用の評価においては、受容体結合後の活性発現がホルモン作用なのか、抗ホルモン作用なのか、の判別が必要である。こうしたなか現在検討されているスクリーニング法は、これらについてそれぞれ別途に試験されねばならず、きわめて非効率的である。ところで、ホルモンや化学物質が受容体(アポ型)に結合すると、受容体の構造・コンホメーションが変化する(ホロ型)。女性ホルモン・エストロゲン受容体のリガンド複合体のX線結晶解析から、そのコンホメーション変化の内容はアゴニストと、アンタゴニストでは異なる。 本研究ではまず、こうした受容体コンホメーション変化の違いを感知・センシングする抗体の調製を試みた。ホルモン結合による核内受容体(転写因子)のコンホメーションの特徴的な変化は、C末端部αヘリックス(H12)である。そこで、これをエピトープとする抗ウサギ・ポリクローナル抗体を調整した。精製した抗体はアゴニスト・17β-エストラジオール(E2)とアンタゴニスト・4-ヒドロキシタモキシフェンを識別した。さらに、アゴニストでも、E2とエストロン(E1)とを識別した。そこで、一連のアルキルフェノールについて検討したところ、E1様の応答を示すことが判明した。これらを総合的に解析したところ、本抗体のみを用いて検討することで、内分泌撹乱物質のホルモン受容体結合能と活性化能を同時に特異的に定量・測定できるアッセイ系の構築が可能であることが判明した。
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