環状化合物を構築する際には、分子内の求核成分と求電子成分との(付加もしくは置換)反応により結合形成を試みるか、あるいは2分子が反応して同時に2箇所の結合を作る環化付加反応を用いるのが一般的である。最近、筆者らはそのいずれの反応においてもアート錯体が有効であることを見いだし、アート錯体の特徴である官能基(化学)選択的な性質を最大限活用した多元素環状化合物の構築への展開を検討している。たとえば、ヨードエポキシド体を用いたハロゲン-メタル交換反応と、それに続く分子内エポキシド開環反応について種々の金属試薬を用いて検討を行ったところ、金属試薬の違いにより、環化方向が完全に逆転した。これらの選択性はBaldwin則では説明できず、Baldwinが予想した要因以外に環化方向を支配する原因が存在することを示唆している。そこで、本研究では有機化学的手法のみならず物理学的手法および計算科学的手法を用いて、本閉環反応における環化方向の決定に関わる要因(エポキシド環からβ位に存在するヘテロ原子の効果と用いる金属錯体の違い)を解明することができた。
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