フラーレン(C60)とパラジウムメタラサイクル錯体との[4+2]型環状付加反応によって生成するシクロヘキサジエン誘導体は、光照射によって60π電子系を保ったビス(フレロイド)へと転位する。従来この反応は光許容の[4+4]/[2+2+2]で進行すると考えられていたが、非対称構造をもった新しい骨格のフラーレン誘導体を中間体として単離することによって別の新しい反応機構で進行することを証明した。さらに、この中間体はビス(メタノ)フラーレンにも変化することを見出した。このことによって、それぞれのホモローグであるフレロイドとメタノフラーレンに見られるような異性化の関係がビス(フレロイド)とビス(メタノ)フラーレンの系にも存在することを明らかにした。この反応機構について分子軌道計算を行い、従来の反応機構における中間体と今回単離構造決定した中間体のエネルギーを比較し、従来考えられていた経路にはエネルギー的に問題があるという知見を得た。さらに、ビス(フレロイド)は光増感作用が強く、分子状酸素を光によって活性化し一重項酸素を発生させることができる。この結果、生成した活性酸素はビス(フレロイド)を酸化しフラーレンのサッカーボール構造を形成する炭素-炭素結合の1部を切断しジケトン誘導体を与えた。この化合物は、フラーレンの表面の一部に開裂ができた特徴的な構造を有しており、分子や原子をフラーレン内部に挿入した内包型フラーレン誘導体を合成する際の重要な中間体となりうる。さらに、ジケトン誘導体は芳香族ジアミンと付加反応を起こし新規な骨格を有する生成物を与える。
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