メタラサイクルは多様な反応性を持つ有用な中間体である。本研究では、シクロブタノンの2位あるいは3位に各種の官能基を導入した基質を用い、それらの分子内官能基に対するローダサイクルの反応性について検討している。本年度は分子内官能基として、特に炭素-炭素二重結合を取り上げ、この分子内挿入反応を試みた。 まず、3位にオルトスチリル基を持つシクロブタノンを触媒量のカチオン性ロジウム錯体の存在下で加熱した。配位子として二座性のPh_2PCH_2CH_2CH_2PPh_2を用いた場合に[3.2.1]bicyclooctanone誘導体が好収率で得られた。この反応では、ロジウムがシクロブタノンのカルボニル炭素とα位炭素の間に挿入し、5員環ローダサイクルを生成した後に、分子内でビニル基が挿入して、最後に還元的脱離が起こったものと考えられる。 次に、2位にオルトスチリル基を持つシクロブタノンを合成し、これをロジウム触媒の存在下で加熱したところ、8員環ケトンが得られた。ロジウムがシクロブタノンのカルボニル炭素とα位炭素の間に挿入し、5員環ローダサイクルを生成した後に、分子内でビニル基が挿入して、三環性ローダサイクル中間体を与え、さらにβ水素脱離と還元的脱離が連続して起こった結果生成したものと考えられる。リガンドとしてはP(o-MeOC_6H_4)_3が最も良い結果を与えた。位置異性体の生成比は、β水素脱離の容易さを反映しているものと考えている。本反応は、一般に構築が容易でない8員環炭素骨格が出来ている点で、合成化学的に有用である。
|