4本の金属配位性側鎖をもつ12員環テトラアミン『アームドサイクレン』は、ナトリウムイオンや希土類イオンと安定な八配位型金属錯体を形成し、結晶中のみならず溶液中においても4本の側鎖を同一方向を向けた『4重らせん構造』をとることを見い出した。本特定領域研究では、生体系に匹敵する優れた認識機能を発揮する多重環状レセプターの新合成法の開発をめざして、1)基本骨格となる4重らせん構造をもつ『アームドサイクレン・金属錯体』の側鎖上置換基として光学活性団の導入を図り、高度に不斉制御された4重らせん構造を誘起・保持させることに成功を収めるとともに、2)側鎖上置換基としてピリジン環をはじめとする多彩な金属配位性団を付加し、金属配位結合を活用した4本の側鎖間での効率的な架橋反応を実現し、新しいタイプの多重環状化合物のための一段階合成法を確立した。 本特定領域研究によって合成された新規多重環状化合物は、ヘテロ複核金属錯体の配位特性を活用した空間制御型多点分子認識機能の発現や、発光特性をもつレニウム金属中心の導入による光応答性金属錯体系の構築など、新しい分子機能材料への展開に大きな可能性をもつものとして重要である。 また、従来よりクラウンエーテルやポリアミンなどを基盤とする「かご型環状化合物」を中心に、国内外を問わず活発な研究が展開されてきた環状レセプター分子系とは異なり、これらの研究成果は、『アームドサイクレン・金属錯体』上に誘起した不斉な4重らせん構造の特性を活かして、高度な不斉構造をもつ『多重環状レセプター』の開発に有効な新しい合成戦略を確立したものとして注目される。
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