揺らぎの大きな多自由度系における協同的秩序化現象の中にあって、エントロピー的強相関が決定的な役割を演じる2つの分子のペアとして、ナノチューブと線状高分子の組み合わせがある。シクロデキストリンからつくるナノチューブは、内径が0.45nmとナノチューブの中でも最も細く、溶媒に可溶、長さが制御可能などの特性をもつ。線状高分子はナノチューブに包接されると、コイル状から棒状にその形態を大きく変化させる。このとき、形態エントロピーが大きく減少することから、この系は温度に対してナノスケールの構造が転移的に変化する強相関2分子系となる。本研究の目的は、ナノチューブと線状高分子を単位とした2元分子材料を作成しその物性を調べることにある。 我々は最近、従来の化学ゲルや物理ゲルとはまったく異なる新しいゲル、トポロジカルゲルの作成に成功した。このゲルは、高分子がナノスケールでトポロジカルに拘束されており、従来のゲルにはない様々な興味深い物性を示す。平成13年度は、トポロジカルゲルの力学物性を調べるために粘弾性測定装置を導入するとともに、中性子散乱、準弾性光散乱を用いてトポロジカルゲルの構造と物性を調べた。中性子散乱では、通常の化学ゲルが膨潤とともに不均一性が増大し散乱強度が増すのに対して、トポロジカルゲルは膨潤しても散乱強度がほとんど変化しないという結果が得られた。これは、トポロジカルゲルでは架橋点が自由に動くため、膨潤に伴う不均一性の増大が緩和されているものと解釈できる。すなわち、トポロジカルゲルの滑車効果に関する実験的検証の1つが得られた。また、準弾性光散乱では、ゲル化に伴って従来の化学ゲルでは見られないモードが観測された。これは、架橋点の動きを反映したモードであると考えている。また、トポロジカルゲルの1軸伸長ひずみ-応力特性を測定したところ、従来のゴムやゲルとは大きく異なる特性が得られた。
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