研究概要 |
3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(IPMDH)はロイシン生合成系の酵素の一つである。既に中等度の耐熱性を獲得している中等度好熱菌Bacillus coagulansに由来するIPMDH(BcIPMDH)に対して,高度な耐熱性を有する高度好熱菌Thermus Thermophilus由来IPMDH(TtIPMDH)の耐熱化戦略を導入することにより,BcIPMDHの熱安定性のさらなる向上を試みた。タンパク質内部の疎水コアに存在する水素結合していない極性アミノ酸は,タンパク質分子の熱安定性を低下させることが知られている。TtIPMDHは活性型として2量体構造をとり,そのサブユニット接触部位は疎水コアを形成している。一方,BcIPMDHも同様な2量体構造をとるが,サブユニット接触部位(TtIPMDHの疎水コアに相当する部分)には極性アミノ酸が存在する。そこで,BcIPMDHのサブユニット接触部位に存在する極性アミノ酸を疎水性アミノ酸に置換した変異型酵素を調製し,耐熱性の比較を行った。アミノ末端から数えて225番目のセリン(Ser225)あるいはGlu251をAlaないしLeuに置換した変異型酵素(S225AおよびE251L)の変性温度は,それぞれ57℃および65℃であり,野生型酵素の53℃に比して耐熱性の向上がみられた。さらに,2つのアミノ酸置換を組み合わせた変異型酵素S225A/E251Lの変性温度は70℃であり,17℃もの熱安定性の向上が観察された。次に,耐熱性が向上した変異型酵素S225A/E251Lのサブユニット接触部位にさらに多くの疎水性アミノ酸Leuを導入し,疎水コアの強化をはかった。変異型酵素V221L/S225L/I229L/E251Lでは,変異型酵素S225A/E251Lに比べ,約3℃耐熱性が向上したという予備的な結果が得られた。
|