研究概要 |
前年度開発したPSO-1は,ヒトテロメアDNA配列の合成DNA(オリゴヌクレオチド)の両置換基末端に蛍光色素FAMとTAMRAを導入した分子であった.このPSO-1は,期待したようにカリウムイオン存在下にFRETが観察され,TAMRAの蛍光がカリウムイオン濃度と相関して増大することが明らかとなった.PSO-1のカリウムイオン特異性は,ナトリウムイオンに比べ43,000倍とこれまでに類を見ないものであった.しかしながら,FRET効率は,期待していたレベルと比較して高くはなく,細胞を用いた蛍光イメージングには不十分であった.そこでOxytrichaテロメアDNA配列を利用したPSO-2を設計した.この場合,二つの蛍光色素の平均的距離がPSO-1の場合と比較して長いため,カリウムイオン非存在下におけるFRET漏れ(分子内の距離が近いためランダムコイル状態でもFRETが起こってしまうこと)が小さくなるものと期待された.また,グアニン4量体(G-カルテット)構造がPSO-1では3箇所形成されるのに対しPSO-2では4箇所形成されるので,カリウムイオン選択性を高めることができると期待された.PSO-2の性能を評価したところ,当初の目的どおりカリウムイオン非存在下におけるFRET漏れは抑制されたが,ナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択性が低下した.こうした結果は,オリゴヌクレオチド分子鎖の自由度がPSO-1と比較してPSO-2で増大しすぎたためと考えられる.このような検討から得られた結果は,オリゴヌクレオチド配列を変化させることにより,カリウムイオンをより効果的に蛍光センシングする試薬開発の可能性を示している.
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