研究概要 |
固体NMR測定のために安定同位体を用いたF_0F_1-ATP合成酵素サブユニットcを調製し脂質膜に再構成する法を確立し,固体NMR実験を行った。アミノ酸配列特異的に同位体標識を行える有機化学的な方法では,最初に79残基の全配列を固相法で一度に合成しうる.精製は,主に逆相HPLCを用いて行う.この方法の収率は5%度であったので,比較的安価に固体NMR試料を作れるようになった.この方法で,一つの分子鎖上にあるAla24C^βとAla64C^αのみを^<13>C標識したサブユニットcとAla24C^βとAsp61C^γのみを^<13>C標識したサブユニットcを有機合成した.この試料について核間距離を測定するため,サブユニットcを生体膜に再構成して,NMR線幅が0.5ppm程度になり分解能が最も高くなる測定条件を求めた.これら試料について,^<13>C間距離測定をした結果,それぞれ0.39nmと0.44nmになった.これまで提案されているサブユニットcの複合体モデルと比較して,前者については分子内の距離,後者については分子内でも分子間でもありうることがわかった.測定した距離が分子内か分子間かを明らかにするために,現在^<13>C存在比を変えて実験を行っている. ^<13>C,^<15>N完全標識には,大腸菌の大量発現系を用いた.精製は,有機溶媒を用いる方法で効率よく精製できることがわかった.サブユニットcを大量に含む粗精製した膜分画をについて,2次元^<13>C双極子相関固体NMRスペクトルを測定した.これから,アラニンやバリン,ロイシン由来と考えられるシグナルを観測することができた.この結果を,再構成したサブユニットc複合体のスペクトルと比較することで,再構成する条件を詳しく検討する予定である. まだサブユニットcの構造決定に至っていないが測定条件と測定法の確立により,これからの固体NMRによる構造決定のための基礎ができた.
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