本研究では、タンパク質の結晶を低湿度の雰囲気に曝すことによって結晶中の溶媒含量を減らすことが結晶のX線回折分解能の向上につながると考え、分解能向上のための低湿度処理プロトコルの開発を目指している。 本年度は、まず、タンパク質の結晶を低湿度の気流中で処理しつつ、同時に結晶からの回折X線パターンを記録できるような装置を作成した。装置は、恒湿度発生装置にコンプレッサーを接続し、レギュレーターを使って流速が一定の気流を作り出し、これをタンパク質の結晶をマウントした石英のキャピラリーに通じるようにしたものである。この装置を使って、様々な相対湿度、気流の流速の元で、鶏卵白リゾチームの斜方晶結晶を低湿度処理した。 この結果、室温(20-25℃)付近では、キャピラリー中の気流の線流速を10cm/secと遅くし、相対湿度95-98%という飽和水蒸気に近い湿度を用いても1〜3分程度で結晶からの回折X線が観測されなくなることが判明した。そこで、1つの結晶に対して30秒程度の低湿度処理毎にX線回折像を撮影するという実験を行い、低湿度による処理時間と結晶の外見及びX線回折分解能の関係を調べた。その結果、処理の初期には、格子定数の減少は見られるが回折分解能に変化はなく、ある程度処理時間が経過した後に、急速に回折分解能の低下が見られることがわかった。また、鶏卵リゾチームでは、低湿度処理により晶系が斜方晶から正方晶に変化することがわかった。さらに、結晶にヒビが生じるほど外見の変化が起こってもX線回折分解能の変化が起こるとは限らず、X線回折分解能の低下は外見の変化に遅れて起こることを明らかにできた。これらの結果については、現在投稿準備中である。
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