本研究では、タンパク質の結晶を飽和水蒸気よりも低湿度の空気の気流にさらすことによって結晶の溶媒含量を減らし、結晶のX線回折分解能の向上を目指してきた。 タンパク質サンプルとしては、数多くの結晶型が得られる鶏卵白リゾチームを用いた。結晶としては、沈殿剤として塩であるNaClを用いて得られる正方晶系の結晶とポリエチレングリコールを沈殿剤とする斜方晶の2種類を用い、沈殿剤や晶系の違いが低湿度処理の結果にどのような影響を与えるかを検討した。結晶の低湿度処理は、再現性を検討した結果、1mm径のガラスキャピラリー中で結晶に、室温(20-25℃)、相対湿度95%の空気を線流速10cm/secで一定時間当てることにより行った。エックス線回折データの測定は、結晶を低湿度処理に用いたガラスキャピラリー内に密封し、一晩放置後、室温で行った。 結果として、両晶系ともある一定時間内の低湿度気流処理では、X線回折分解能を維持したまま数パーセント程度格子定数が減少するが、処理時間がある長さを超えると急速に分解能が低下した。今回の2つの晶系では分解能の有意な向上は見られなかった。分解能が低下するまでの時間は斜方晶のほうが短く、格子定数の減少も斜方晶のほうが大きかった。収集した回折データを用いて低湿度処理前後の結晶構造を解析したところ、両晶系ともリゾチーム分子の構造には違いが見られず、格子定数の変化は、分子のパッキングの変化によることが確認された。なお、タンパク質表面に結合している水分子の構造と数は、低湿度処理の前後で大きく変わっており、処理前後では結晶中の溶液の沈殿剤濃度が変化することから、沈殿剤濃度(又はイオン強度)の違いによるタンパク質の水和構造の違いを示す興味深いデータが得られた。これらの結果は、日本結晶学会2002年年会(平成14年12月)で発表し、現在投稿準備を進めている。
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