本研究では、同じ7本膜貫通型構造を有するレチノクロムとロドプシンとが、どのような三次元構造的な制御を受けて、リガンドレチナールを全く逆向きに光反応し、異なる「生物マシナリー」を実現しているのかを構造学的に明らかにするために、レチノクロムの結晶化をまず目指した。具体的には、(1)レチノクロムの大量発現・精製系を確立し、(2)高濃度勾配蒸気拡散法によりレチノクロムの結晶化を試みた。 (1)レチノクロムの大量発現・精製系の確立:レチノクロムのcDNAをネオマイシン耐性遺伝子を持つ発現ベクター(pCDNA3.1)に組み込み、ヒト腎臓細胞由来のHEK293S細胞に導入し、恒常的にレチノクロムならびにロドプシンを発現するcell lineを確立した。HEK293S細胞は、サスペンジョンアダプトなので、スピナーフラスコを用いて培養することにも成功した。その結果、1Lの培養細胞当たり、約0.8mg程度の精製蛋白質を得ることが出来た。 (2)-1発現ロドプシンの結晶化:これまでに、網膜由来のロドプシンの結晶化には成功しているが、培養細胞系で発現したロドプシンに付いては、結晶化条件が分かっていない。ロドプシンでの結晶化を平行して行うことにより、その条件をレチノクロムの結晶化のデザインに用いるために、発現ロドプシンの結晶化を行った。その結果、偏光性の良い結晶化が得られる条件を見出した。 (2)-2発現レチノクロムの結晶化:(2)-1の結果を踏まえて、高濃度勾配蒸気拡散法によりレチノクロムの結晶化を試みた結果、直径50ミクロン程度の結晶が再現性よく得られた。
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