ロドプシンは"inverse agonist"として11シス型レチナールを結合しており、光受容によりレチナールが"agonist"である全トランス型に異性化され、蛋白質が構造変化し、G蛋白質を活性化する。一方、レチノクロムは、ロドプシンとは逆に全トランス型レチナールをリガンドとし、11シス型に光異性化する(ロドプシンに発色団を供給するレチナール異性化酵素)。本研究では、同じ7本膜貫通型構造を有する両蛋白質が、どのような三次元構造的な制御を受けて、異なる「生物マシナリー」を実現しているのかを構造学的に明らかにするために、精製したレチノクロムを用いて、高濃度勾配蒸気拡散法により「ヘリックス配置の同定が可能な結晶」の作製をめざした。また、培養細胞から得たロドプシンの結晶化にも取り組んだ。 培養細胞系の確立:レチノクロムを恒常的に2mg/L発現する細胞系を、HEK293Sを用いて、作製することに成功した。また、ロドプシンについてもほぼ同様の細胞系を確立した。これらの発現系をベースとし、単クローン抗体架橋アガロースを用いたカラムクロマトグラフィーにより、4.5mg/月以上の高度精製レチノクロムを得ることに成功した。 レチノクロムについては、高濃度勾配蒸気拡散法により再現性よく結晶化する条件を見い出すことに成功した。現在、大きく成長した結晶について、ヘリックス配置の同定をめざし、X線回折を行いつつある。 ロドプシンについては、野生型では高品質の結晶を再現性よく得ることに成功している。また、変異体についても野生型同様に結晶化できる条件を見いだした。
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