ミトコンドリアには外膜・内膜それぞれにタンパク質膜透過装置、すなわち"Tom(Translocase of Outer Membrane)-複合体"および"Tim(Translocase of Inner Membrane)-複合体"が存在する。本研究は、ミトコンドリアのタンパク質輸入に関る各因子の構造を明らかにし、さらに内膜・外膜のタンパク質輸入装置複合体の構造を解明することによって、ミトコンドリアへのタンパク質輸入過程を原子レベルで理解することを目標としている。 本年度は、特にTom-複合体の中でポリペプチド鎖の透過チャネルを形成するTom40の大腸菌体内での発現・可溶化・精製・生化学解析を進展させた。先ず封入体をグアニジン塩によって変性可溶化し、ニッケル-樹脂カラムに結合させた後、カラム内で変性剤を除きながら界面活性剤に置換することによって高度に精製すると同時にリフォールドさせるという一連の精製・再生に極めて効率的な方法を開発した。これにより精製・再生されたTom40タンパク質はミトコンドリアの前駆体タンパク質に(他のTom因子の助けに依存せず)直接結合できること、この結合がプレ配列によっていること、再生リフオールドさせたTom40がイオン透過特性を有し、CDスペクトルにより予想通りβ構造に富むこと、Tom40に結合したプレ配列はプロセシング酵素に対して耐性を示すことなどを明らかにした。 以上のように、タンパク質輸送担体として期待されるユニークな特性が明らかにされた。以上の生化学解析と並行して、大量調製と結晶化条件の検索に本格的に取り組んでおり、有望と思われる結晶様沈殿の生成にまで至っている。
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