ミトコンドリアには外膜・内膜それぞれにタンパク質膜透過装置すなわち「tom(translocase of outer membrane)-複合体」および「Tim(Translocase of inner membrane)-複合体」が存在する。本研究はミトコンドリアへのタンパク質輸入に関わる各複合体因子の構造を明らかにし、さらに内膜・外膜のタンパク質輸入装置の構造を解明し、ミトコンドリアへのタンパク質輸入というダイナミックな生命現象を原始レベルで解明することを目的とする。本年度は、Tom-複合体のなかで透過チャネルを構成する中心成分であるTom40の解析を中心に進め以下の成果を得た。 (1)大腸菌で発現し、封入体として高度に精製し、変性剤によって可溶化後、Ni-カラムに結合させその後カラム樹脂上で変性剤から界両活性剤に置き換えることによって立体構造を再生できた。(2)リポソームに再構成したTom40はカチオン選択性のチャネル活性を示し、この活性はミトコンドリア標的化プレ配列ペプチドで阻害されることがわかった。(3)電子顕微鏡では、内直径3nmのリング状構造が観察された。(4)マトリクスへ標的化される前駆体タンパク質を特異的に認識・結合することが、抗体を用いた共沈殿の実験や表面プラズモン共鳴の実験で明らかになった。また、この結合は静電的なものであることが判明した。(5)Tom40に結合した前駆体タンパク質はプロテアーゼに耐性となり、リング状構造の内側にまで進入して結合していることが示唆された。(6)Tom40単独および前駆体タンパク質(Su9-DHFR)との複合体の結晶化条件を検討中である。
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