研究概要 |
我々は,基質遷移状態概念に基づいて論理的に高活性のHIVプロテアーゼ阻害剤をデザインした.この方法をさらに発展させて,HIVプロテアーゼとそのアナログを固相法により化学合成を行い,基質や阻害剤と複合体を形成して相互作用の解析をX線結晶解析,NMR,分子モデリングなどの手段を用いて行った.すなわち基質,阻害剤分子単独のコンフォメーションと,超分子形成時のコンフォメーションとの詳細な比較解析を行った.超分子形成は,従来鍵と鍵穴のような固定物として捕えらてきたが,コンフォメーション変化という動的観点で解析を進めた.それらの結果をもとに酵素と阻害剤の相互作用に関する分子認識に基づいた阻害剤の構造活性相関研究を行った. 高度に発達したペプチド合成化学とクロマトグラフィーによる精製の手法を駆使してHIVプロテアーゼとそのアナログを固相上で化学合成を行い,高分子の側からもアプローチした.また,結晶状態の超分子のX線構造解析を行って精密な構造解析を行った. 変異酵素に対して阻害活性を示すジペプチド誘導体KNI-764は,酵素結合の熱力学的解析により,変異HIVプロテアーゼに対しても高い結合能力を保持しており耐性克服の可能性が高いことを示した. 一方,高活性HIV-1プロテアーゼ阻害剤KNI-272を水和物として結晶化し,そのX線結晶構造解析を行った.バックボーのコンフォメーションがねじれていること,化合物全体の構造は,HIVプロテアーゼとの複合体形成時のコンフォメーションに似ていることがわかった.
|