血液脳関門(BBB)と比較して末梢神経系のバリアーシステムである血液神経関門(BNB)の研究は遅れをとっているが、その原因の一つは、BNBの主座である末梢神経神経内膜由来内皮細胞(PnMEC)の培養がその技術的困難から長らく成功していかったことにある。研究者らはこの数年来ウシPnMECを用いてBNBのモデルを作成し、いくつかの業績をあげてきたが、分子レベルでのバリアー破綻・修復機序の解明にはヒト細胞の入手が急務と考え、この2年間の目標をBNBを構成するヒト末梢神経神経内膜微小血管内皮細胞(HPnMEC)の大量純培養法の確立においた。培養液を含む培養条件の調整の結果、剖検材料を用いての同細胞の培養が可能となった。剖検坐骨神経または馬尾神経の神経内膜組織を分離し、我々の開発したウシPnMEC培養法(J Neurosci Res 1997)を一部改変した手法に基づいて酵素処理を行った。10-21日後に純粋なHPnMECのみからなるコロニーをクローニングし、これからHPnMECのmassを得た。HPnMECはcontact inhibitionを示す単層を成し、Dil-Ac-LDLとりこみおよびvon Willebrand抗原陽性で、ウシ脳毛細血管由来内皮細胞(BMEC)やウシPnMECと同じく細長いfibroblastに類似した形態を示した。培養条件の調整により、ヒトPnMECも純培養が可能であることが初めて示されたが、純粋なコロニーの収率が充分ではなく、cell massを使っての生化学的分析までは未だ至っていない。しかし、ある程度の長期にわたって培養可能な、ほぼ純粋なヒトPnMECが得られた意義は大きく、今後のBNBの細胞学的研究や炎症性ニューロパチーの治療法の開発にあたって大きな寄与をなすものと考えられる。
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