研究概要 |
アクチン結合蛋白質・Filamin1を欠損した大脳皮質神経細胞は発生過程で脳室帯から移動できないことが知られている(Neurom21:1315-1325,1998)がその分子メカニズムは明らかでない。この問題に関し、我々は移動する神経細胞内においてFilamin1がインテグリンのリサイクリング(移動細胞後縁の細胞膜からの回収と前縁での再発現)に重要な役割を果たしているのではないかとの作業仮説を立案した。本年度はこの仮説の是非を検討することを目的として,インテグリンの細胞内動態にFilamin1が関わるのかにつき以下の研究を行った。 1.インテグリンとFilamin1の結合の検討:インテグリンβ1とFilamin1が結合することはリンパ球においては知られているが、神経細胞においては不明であった。そこで神経分化を誘導したGOTO cellを用い免疫沈降法にて検討したところ、両者が結合することを示す結果を得た。 2.インテグリンの細胞内動態とFilamin1との関連の検討:Filamin1が存在しない状況下ではインテグリンβ1の細胞内動態にどのような変化が現れるのか、Filamin1を欠損したメラノーマ細胞を用いてインテグリンβ1の細胞膜上への発現量および膜からの回収速度を解析したところ、Filamin1を補充した対照のメラノーマ細胞と明らかな差が見られなかった。 また、大脳皮質神経細胞の移動はインテグリンβ1欠損マウスにおいても正常に保たれるとの所見がこれらの検討と相前後して他グループから発表された(Neuron31:367-379,2001)。これらのことから、Filamin1から神径細轡動までの分子メカニズムにインテグリンβ1は必須の関与をしていないと考えられた。今後はその他のFilamin1結合蛋白質の関与について検討する予定である。
|