研究概要 |
アクチン結合蛋白質・Filamin-1(Filamin A)を欠損した大脳皮質神経細胞は発生過程で脳室帯から移動できない(Neuron 21:1315,1998)ことから、Filamin Aは神経細胞移動に必要な因子と考えられる。実際我々はFilamin Aに結合しその分解を促進する蛋白質FILIPが細胞移動の開始を調節することを見い出した(裏面発表論文)。しかしFilamin Aが神経細胞移動にどのような機序で関わるのかは明らかでない。この問題に対し、我々は移動する細胞内でFilamin Aがインテグリンβ1との結合を通じインテグリンのリサイクリング(移動細胞後縁の細胞膜からの回収と前縁での再発現)に重要な役割を果たすのではないかとの仮説を立案し、本研究でまずこの是非を検討したが、インテグリンβ1はFilamin Aと神経細胞移動をつなぐ機構に必須の関与をしていないとの結論に至った(昨年の研究実績報告書に記載)。 そこでインテグリンに代わりSH2-containing inositol polyphosphate 5-phosphatase(SHIP-2)に着目した。SHIP-2は細胞移動に深く関わるphosphatidylinositol 3,4,5 trisphosphate(PIP3)を脱燐酸化する働きを有し、またin vitroでFilamin family分子と結合するとの報告がある。我々はこれまでに発生期の大脳皮質においてFilaminとSHIP-2が結合していることを明らかにし、また移動細胞内でSHIP-2が機能するためにはFilaminとの結合が重要であることを示す結果を得た(投稿準備中)。これらはFilamin A欠損状態ではSHIP-2が充分に機能できず、PIP3の調節に異常が生じて細胞移動が阻害されるという機序を示唆するものと考えられる。
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