生体の歩行運動および腕のリーチング運動が、エネルギー効率に関して最適な運動であるかどうかを考察するため、以下を行なった。 1.多足歩行動物の歩行運動の最適性を検討するため、歩行時に足を動かすために必要な消費エネルギーを見積もる近似式を解析的に導いた。それにより消費エネルギーを最小にする歩行パターンを求めた結果は、多足歩行動物の歩行時における足の運動周期や歩幅等に関する多くの特長と一致した。すなわち、多足歩行動物の歩行パターンはエネルギー消費に基づく最適なものであると考えられる。また、多くの多足歩行動物の歩容がある速度で相転移的に変化することも、エネルギー最小化に基づく結果であると考えられる計算結果を得た.特に、歩行中の各足への床反力の分布が、観察される歩容の組合せを決定し、また相転移的な変化を引き起こす要因になり得ることを明らかにした. 2.2点間を運動する腕のリーチング運動の軌道の、消費エネルギーに基づく最適性を検討するため、まず、遺伝的アルゴリズムとスプライン関数を用いた最適軌道の計算方法を開発した。次に、それにより求めた最適軌道と、ヒトの運動軌道を計測した結果を比較検討した。人のリーチング運動を計測した結果は、運動時間・運動の区間(垂直面内、水平面内)・手先への負荷といった異なる様々な運動条件によらず、手先の速度変化はベル型の形状となった。一方、計算により得られた最適軌道の速度変化は運動条件によらずほぼ半円型の形状となり、実際の運動軌道の形状と異なる。すなわち人のリーチング運動はエネルギー消費の観点からは最適とは言えないことになる。その理由は手先の運動に求められる運動の正確さを高めるためと考えられるが、この点については今後の更なる検討が必要である。
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